ショウナンカンプという馬の“強さ”と“人間味”が同居した瞬間を、今でも忘れられない。
藤田伸二とのコンビで一気に頂点へ駆け上がったショウナンカンプ。芝転向後は圧巻の逃げ脚で高松宮記念を制し、短距離界の新王者として名を刻んだ。藤田が語った「この馬はスピードの絶対値が違う」という言葉は、その走りを見れば誰もが納得するものだった。
だが、そんな絶頂の裏側に、私だけが見た“素顔”がある。
連覇がかかった高松宮記念。私は中京競馬場へ足を運び、パドックでショウナンカンプを見つめていた。鋭い眼光で前を向く姿は、まさに王者の風格。しかし、ふとこちらを向いたその瞬間、目が合った。ほんの一瞬だったが、彼は確かに私に向かってこう呟いた。
「俺…疲れてんねん。」
もちろん馬が言葉を発するわけじゃない。でも、その表情はそう語っていた。王者として走り続けた重圧、逃げ馬として常に先頭に立つ宿命、そして連覇を期待される重み。すべてを背負った馬の“本音”が、あの一瞬に滲んでいた。
レースは惜しくも敗れ、連覇はならなかった。
だが、あの日のショウナンカンプは、勝った時以上に強く、そして美しかった。疲れを抱えながらも逃げの姿勢を崩さず、最後まで王者の走りを貫いたからだ。
競走馬は強さだけで語られがちだが、ショウナンカンプは“心”を見せてくれた馬だった。藤田伸二との名コンビ、圧巻のスピード、そしてパドックで見せたあの弱さ。すべてが重なって、僕の中で唯一無二の存在になっている。
あの日の「俺、疲れてんねん」。
あれは、王者が私にだけ見せてくれた、ほんの小さなSOSだったのかもしれない。
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